歯科治療症例
こちらの症例は、院長の今西祐介がこれまでに実施してきた歯科治療の中で、特に治療難易度の高かったものや、当院が拘る「歯を抜かない」「歯を守る」治療方法、そのためのコンフォートブリッジ治療というものを知って頂くための症例を幾つか紹介させて頂きます。(症例には、以前の医療機関で実施してきたものも含めてご紹介させて頂いています。)症例 Mさん(女性)45歳
主訴(H26.12.16初診)
左上4番脱離、痛みは無いが咬合時の違和感がある。オーストラリア在住のため1ヶ月で治療して欲しいとの希望がありました。左上4番X線写真により、左上4番歯根縦破折が確認できます。
治療方法の検討
最終補綴は、歯根膜の圧受容器としての働きが限界まで保存でき、予後の清掃管理もしやすく、今後起こりうるあらゆるトラブルに対応可能なものが第一選択となります。そして、100歳まで生きる可能性のある患者さんの一生を考えた治療でなくてはなりません。左上5番を支台歯とするコンフォートブリッジを選択することにしました。
治療の実施
与えられた時間が1ヶ月しかないため早急に破折した左上4番は再植して保存します。抜歯窩(抜歯した後のくぼみ)のX線写真です。故意に抜歯した場合、歯槽骨が元の位置に回復することは殆どありません。
抜歯した歯牙の歯石や根充材などを超音波スケーラーを用いて除去します。
破折した歯牙をスーパーボンドで接着します。
根面板を被せることで清掃性を高め、再破折を防止します。
再植
再植直後
コンフォートブリッジ装着
歯肉の発赤腫脹、ポケットからの出血、排膿なども無く落ち着いています。
治療後の状況
初診から1ヶ月後の正面観口腔内写真
先日、家族の方が来院された際お聞きしたところ再植歯も良好で痛みもなく何でも食べられているとの報告を頂きました。患者さんの1本1本の歯牙は単に咬合力のみを支えているのではなく、健康で長生きするための一人ひとりの人生を支えているということをお口の番人である歯科医療従事者は決して忘れてはいけません。私自身これからもさらに努力し精進して参りたいと思います。
症例 Hさん(女性)85歳
主訴(H19.7.18)
犬の散歩中転倒により顔面を強打し、歯が何本か抜けてしまったので、何とか戻して ほしいとの連絡がありました。治療の実施
また、再植歯に適度な咬合圧を加えることでアンキローシス(骨性癒着)防ぐとともに何より、自分の口から栄養を摂ることで治癒能力もさらに高まるのです。
残念ですが左下1は、転倒時拾って来てくれた歯牙の中にはありませんでした。(今思えば、なぜ自分が現場に行き、落ちていないか探してくるということをしなかったのか後悔しています。)
転倒から2ヶ月経過(H19.9.14)
傷もなくなり、歯肉の腫脹もありません。コンフォートブリッジ装着
10枚法デンタル写真です。再植歯は経過良好で動揺もなくなってきたためファイバーコアを立て右上1、左上1、2の内冠連結の支台歯とし、転倒前からある右上4の支台とともにコンフォートブリッジを装着しました。
事故から7年(H26.9.2)
事故から7年が経った現在の10枚法デンタル写真です。一本の歯も失っていません。
Hさんは転倒後のこの7年間2~3週間に1度の予防通院を欠かしたことはありません。9月2日のこの日は、Hさんの92歳のお誕生日でした。
症例 Hさん(女性)63歳
主訴(H19.1.24)
虫歯の治療、左側臼歯部の違和感、歯周病検査希望で来院されました。初診時の口腔内写真
初診時の10枚法X線写真
全顎的にやや水平的骨吸収が認められ、下顎前歯部歯石沈着、左上2番カリエス、左上6番根分岐部透過像、近心頬側根未根管充填等が認められます。
治療の実施
触診時左上4番6番支台のブリッジにカタつきがあったため除冠したところ、4番はすでに支台から外れていました。すなわち固定性のブリッジは支台歯全部のセメントが外れない限り脱離してくれないため、患者さん自身も気づかないうちに2次カリエスや支台歯過重負担等、2次的トラブルが発生しやすく、ポンティック基底面に付着したプラークのコントロールは非常に難しいと言えます。感染根管治療開始から3カ月
左上7番の感染根管治療開始から3カ月が経過したが、ポケットからの排膿や咬合時の痛みが増したため左上7番歯牙再植術を行うことにしました。抜去した歯牙の分岐部には歯石が沈着しており、超音波スケーラーにて直視下にて除去していきます。その際分岐部にパーフォレーションが確認できたため、スーパーボンドで埋めてから再植しました。たいていの場合歯牙再植では直視下での根管治療が可能なため根管充填後、抜歯窩に戻すケースが多いのですが今回のように術後再根管治療が予測される場合は未根管充填のまま再植します。
初診から3年後-再植-
左上6番にも数カ月にわたり感染根管治療を行うも、左上7番と同様の症状が続いたため歯牙再植を行いました。コンフォートブリッジ装着
このケースの場合プラークコントロールがしやすく、再治療にも咬合の変化にもすぐ対応出来て、一本一本の歯牙のトラブルが発見しやすく、補綴物の修理が簡単にでき、何よりも命の源である歯を抜かないで済むコンフォートブリッジが最良と判断しました。再植から3年後
顎関節症の治療
日本人の約7人に1人が顎関節症を患っていると言われていますが、それらの大半は放置されたままにあります。顎関節症、咬合の狂いは我々歯医者でなければ治せないのに、その歯医者が見逃しているケースが大変多いと感じます。Hさんも私がお伺いするまでは自分が顎関節症であることは知りませんでした。咬合挙上床のメリットは薬の服用とは違い副作用が無いということ、着脱が容易に出来る、保健が適応されるなど自分の身体をまず傷付けずに済むことから、比較的誰にでもスムーズに治療に入ることが出来ます。初診から約4年半
初診から約4年半が経ち症状も改善したため下顎の臼歯部をバイトアップして行きます。患者さんの審美的希望によりE-MAXにて治療させていただきました。初診から約6年後
現在も症状は落ち着いており、毎月一回の予防に必ず通ってくれています。健康で長生きは皆が目指していることです。そのために歯は大切な臓器です。技術や材料がこの先どんなに進歩したとしても、天然歯の持つ可能性には敵いません。天然歯を支える歯根膜は、人間らしく生きる力も支えています。今まさに我々が直面している超高齢化社会において、認知症、自律神経障害、運動能力の低下、不定愁訴などこれらの問題は、残存歯数が多いほど防げると言われています。見てくれももちろん大事ですが、その前に患者さんの一生を考えた治療をこれからも考えていきたいと思います。
症例 Kさん(女性)65歳
主訴
左下臼歯部咬合痛、右上5番歯肉腫脹のため他院に通院するも、抜歯してインプラント治療が最適であると、異なる2つの医院で同じことを言われた。しかし、これ以上の抜歯やインプラント治療に不安を抱き、友人の紹介で当院に来院されました。初診時 口腔内写真
初診時 10枚法X線写真
右上7番のみ生活歯、左側上下7番、右下4番、6番にインプラント治療が確認できます。このインプラントは、10年程前に他院で処置されたそうですが、いずれも天然歯とインプラントを支台歯としたブリッジになっているため、それぞれの沈下量の違いやメインテナンスの難しさ、その他たくさんの問題から全てのブリッジにトラブルが生じていることが確認できます。また、そのトラブルの多くは、歯牙の方に大きく出ています。確かに、Kさんのプラークコントロールは決して上手とは言えません。しかし、この口腔内の現状は、果たしてKさんにのみ責任があると言えるでしょうか。
治療の実施
まず、動揺の著しいブリッジを、インプラントとポンティック部の境で切断すると、カリエスによりコアが既に歯牙から脱離していました。すなわち長い期間、このブリッジは、支台の片側であるインプラントのみで臼歯部の咬合力を支えていたことになり、それらが咬合痛などの症状を誘発していた原因になっていました。また、不安定な咬合は肩こり、偏頭痛、耳鳴り、クリック音等の症状を伴う顎関節症も引き起こしていました。顎関節症治療も開始
インプラントを除き、不適合冠は全て除冠しました。カリエス処置、P処置のしやすい口腔内にすると同時に、顎関節症治療もスタートしました。Kさんの場合、仮義歯の役割も兼ね備えた挙上床を装着し、調整をします。コンフォートブリッジを選択
咬合位も安定したため、下顎最終補綴の選択ですが、このケースの場合、プラークコントロールがしやすく、再治療にも咬合の変化にもすぐ対応が出来て、一本一本の歯牙のトラブルが発見しやすく、補綴物の修理が簡単にでき、何よりも命の源である歯を抜かないで済む、コンフォートブリッジが最良であると判断しました。コンフォートブリッジ装着
下顎コンフォートBr外冠
外冠未装着時
外冠装着時
右下4番6番のインプラントを支台としたブリッジはあえて設計から外し、なるべく咬合の負担がかからぬように、コンフォートブリッジ外冠を作成しました。
治療を通じて感じたこと
Kさんは今まで、たくさんの歯科医師の治療を受けてこられました。その都度、これで最後の治療にしようと思って来たはずです。そして、携わってきた歯科医師も、同じ気持ちでKさんの治療をしてきたことでしょう。しかし、現実は違いました。全ての歯を治療した後も、再治療に悩まされて来たのです。我々歯科医師は、治療方針を決定する際、あらゆるトラブルに備えて、一日ごとに年老いて行く患者さんの一生を考えた治療を選択していかなければなりません。すなわち、一時の見てくれや便利さに走っていては、現在の原発と同じくトラブルが起きた時、人間の力ではどうすることも出来ないという事態を招きかねません。
心臓外科医が簡単に人工心臓を選択するでしょうか。整形外科医が義足や義手を簡単に選択するでしょうか。私は歯科医師です。
歯は命の源、歯医者が歯を残さずして、誰が患者さんの歯を残してあげられるでしょう。 予防に勝る治療はありません。自分の歯に勝る歯もありません。少しでも患者さんの期待に答えられるよう、抜かない歯医者を目指して、これからも精進して行きたいと思います。